2008年10月29日水曜日

横への並び






ここで、横への流れを見てみよう。
横への流れを決定するのは、横書くの角度の統一感です。常に一定のリズムで手を振るように腕の構えによって生み出される横画は、指の動きを止めることで出来るが、指を動かす癖のある人はなかなか揃えることが難しいでしょう。
扁平に文字を揃えることで横への動きが増し、統一感のある紙面を作ることが出来ますが、慣れが必要です。初めは文字が上がってしまったり下がってしまったりとなってしまうはずです。紙面の上も下も右でも横でも、同じ状態で腕を動かせるように練習してください。

時照見五

写経体は初唐の楷書などの聳え立つような結体とは異なり、むしろ字形をつぶして横への張りを大事にすることで、紙面全体の統一感を見せている。右上がりは良いが文字が傾いてしまっては全体を見渡したときの横への統一感が失われ、ぎくしゃくしてしまう。一字と全体、難しい問題ではあるが、50分で書ききる目標を立て、その世界に近づくことで音楽を奏でるようなリズムが生まれ、一文字一文字も生き生きとしてくる。横は細く縦は慎重にというリズムを繰り返し繰り返し淡々と書き進めていって欲しい。

波羅密多


波のさんずいが繋がるところは行書の形、行書は次画への繋がりを緊密にすることで流れを生み、速写に適する。この動きを掴まないと50分への道は遠いものとなろう。
密も写経の体、昔ある大学の教授が王羲之の初月帖を見て王羲之は正を初に取り違えて書き記したと、勘違いされたことがあるが、王羲之には王正という叔父があったので避諱という習慣により、正の時を使えなかった。そのため正月を初月と書き記した。
言葉や文字は通俗に流れる習性があるので、その時代時代によって様々に書き記されてきた。我々は辞書も使うが字書をもって文字を考察するものであるから、現代の尺度で正誤を判断しないで欲しい。
兎に角、写経体というものがあり、之に随って書くと、書きやすく美しく書けると、千数百年の間行われてきた伝統なのである。


2008年10月28日火曜日

行深般若

書き進めるリズムはお経を唱えるごとくフレーズに随ってください。
多行数を書くことになるので行を移るときなど、手本を脇に置いていても、脱字や、行を飛ばしてしまったりすることがあります。

般の字も写経独特の体です。々の形はこの方が落ち着くからか、写経ではこのように書かれています。明は日と月の意味を重ね合わせた会意文字といわれるものですが、日を目に書かれる例もあり、点画の増減や、体の改変など自在に行われていました。

若も草冠ですが、前出の菩薩のように四画ではなく、草書の体を借りて、三画に書かれています。

観自在菩薩

この行から書き始め、心経は最後に書くと良いでしょう。

一枚を50分で書こことを目標にしてください。速いと粗雑になり、遅いと重苦しいものになります。

速く美しく書くために、繰り返し習うことで、お経も覚えスムースに書くことが出来るようになります。

速く書くために、写経では写経体という普段の文字とは異なった体が使われています。観の文字では旧字の形にはくさかんむりの下に口が二つありますが、省略されてこのような形になって、速く書けるようになっています。

写経は古くは奈良時代頃から行われていますが、菩薩の草冠に見られるような、今では古い字形が使われています。現在では横縦縦と三画で書かれている草冠も戦前までは縦横横縦の四画、字源をたどれば六画で書かれていたものです。漢和辞典の最初のページに載っている部首一覧でも草冠は六画です。

肘の張り具合で横画の角度を調節し、横画は細く素早く、縦画は起筆を強くして太く慎重に書くことで、写経独特の結体が身についてきます。


般若心経一巻 須釜満都

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